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自宅学習を効果的に行う工夫について
2020年4月下旬に行ったアンケートの結果、名大生の大半がCOVID-19対策による自宅学習に困っているということがわかりました。ここでは、動機(やる気)についての一般的知識を紹介し、自宅学習を効果的に行う工夫について述べようと思います。
ですので、動機が舞い降りるまで待つのは、時間の無駄となります。動機が生じるのを待っていては、締め切りギリギリまで先延ばしをすることになります。これを防ぐには、逆説的なように感じるかもしれませんが、動機が得られる前に始めること、そしていかに楽をして始めるかが重要となります。
この研究では、参加者は無作為に3つのグループに分けられました。研究の目的は、よりよい運動習慣を身に着ける方法を見つけることです。グループIは、コントロール群で、単にどれくらい運動をしたか記録をつけるよう指示されました。グループIIは「動機づけ」群で、運動がいかに健康に大切か(例えば、心血管系疾患のリスクを減らすなど)を説明する資料を受け取りました。グループIIIは「動機づけ+予定」群で、グループIIと同様の資料を受け取ったのちに、いつどこで運動をするのか計画を立てるよう指示されました。2週間後に、研究者たちは、それぞれのグループにどれくらい運動したかを聴取し、週に1回以上運動をした人の割合を調べました。グループIとグループIIでは週1回以上の運動をした人の割合は、それぞれ38%と35%でした。これに対して、グループIIIでは91%の人が、週1回以上の運動をしました。この研究の結果からは、運動の効果や重要性を知るのみでは行動を変えるには不十分で、具体的な予定を立てることが行動変容には重要であることがわかります。
COVID-19対策が実施されるまでは、大学授業の時間割が、一定の強制力を持った予定として機能していました。しかし、現状では授業はオンラインで行われ、そのパワーポイント資料には好きな時間にアクセスすることができます。このような状況では、学習し続けるためには、自ら予定を立てることが不可欠です。予定を立ててみたけれど、予定通りにできないのが問題だと言う人もいるでしょう。そのような時は予定が過密すぎないかを確認してみましょう。楽で、シンプルで、持続可能な予定をまずは立てるようにしましょう。一旦、習慣が確立すれば、少しずつ負荷を増やすことは難しいことではありません。もう一つの工夫は、開始するための儀式を日常に取り入れることです。例えば、作曲家のベートーヴェンは毎朝、一日を始めるコーヒーを淹れるため60粒のコーヒー豆を数えたと言われています。なんでもよいので、あなたに合った簡単でシンプルな儀式を見つけてみましょう。
学習環境を確立するためにも、このゾーニングの概念は有用です。日本の住環境は猫の額のように狭いことは承知していますが、それでもできる工夫はあります。ゾーニングの考え方を利用して、部屋を「学習エリア」と「リラックスエリア」もしくは「娯楽エリア」に分けることは効果的です。娯楽のために用いるスマートフォンなどは学習エリアに持ち込んではいけません。もし、あまりにもスマートフォンが誘惑的であれば、学習の予定時間中はキッチンやトイレに置いておきましょう。学習エリアから手の届く範囲には、学習に関係のあるものだけを置きましょう。学習にパソコンが必須で、パソコンには多くの娯楽への誘惑があるから困るという人がいるかもしれません。そのような場合は、娯楽に用いるブラウザやゲームのアプリなどを、デスクトップ上から隠してしまいましょう。そこにたどり着くまで、数回でも多くクリックしなければならないことが、小さい障壁となってくれるでしょう
COVID-19の拡大によって、日常生活の様式が大きく変化しました。これらの変化がいつまで続くかはわかりませんし、その一部は一時的な変化ではなく、永続的な変化かもしれません。このような状況では、少しずつ変化に適応することが求められます。この困難な状況を皆で乗り越え、困難な状況においても学習が止まらないよう願っています。
参考文献
1. James Clear: Atomic Habits, An Easy & Proven Way to Build Good Habits & Break Bad Ones, 2018, Avery(牛原眞弓訳『ジェームス・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』, 2019, パンローリング株式会社)
2. Sarah Milne, Sheina Orbell, and Paschal Sheeran: Combining Motivational and Volitional Interventions to Promote Exercise Participation: Protection Motivation Theory and Implementation Intentions, British Journal of Health Psychology 7 (2002): 163-184.
動機は行動の「前」ではなく、「後」に生じる
動機について、多くの人は誤った認識をもっています。動機とは、時がくれば、天から降ってくるインスピレーションのようなもので、それさえあれば、行動(例えば勉強・研究など)を始めるきっかけとなると捉えている人が多いと思います。しかし、動機と行動の順番は、実際はこの逆なのです。動機は行動の「後に」生じるのであって、行動の「前に」は生じないのです。動機は行動の原因ではなく、その結果なのです。ですので、動機が舞い降りるまで待つのは、時間の無駄となります。動機が生じるのを待っていては、締め切りギリギリまで先延ばしをすることになります。これを防ぐには、逆説的なように感じるかもしれませんが、動機が得られる前に始めること、そしていかに楽をして始めるかが重要となります。
予定を立てて、学習習慣を確立しよう
動機の働き方が理解できれば、単に始めればよいのです。しかし、始めること自体に障壁があるかもしれません。開始することの鍵となるのは、予定を立てること、そして習慣を確立させることです。ここで予定を立てることが、いかに重要かを示す論文を紹介します。この研究では、参加者は無作為に3つのグループに分けられました。研究の目的は、よりよい運動習慣を身に着ける方法を見つけることです。グループIは、コントロール群で、単にどれくらい運動をしたか記録をつけるよう指示されました。グループIIは「動機づけ」群で、運動がいかに健康に大切か(例えば、心血管系疾患のリスクを減らすなど)を説明する資料を受け取りました。グループIIIは「動機づけ+予定」群で、グループIIと同様の資料を受け取ったのちに、いつどこで運動をするのか計画を立てるよう指示されました。2週間後に、研究者たちは、それぞれのグループにどれくらい運動したかを聴取し、週に1回以上運動をした人の割合を調べました。グループIとグループIIでは週1回以上の運動をした人の割合は、それぞれ38%と35%でした。これに対して、グループIIIでは91%の人が、週1回以上の運動をしました。この研究の結果からは、運動の効果や重要性を知るのみでは行動を変えるには不十分で、具体的な予定を立てることが行動変容には重要であることがわかります。
COVID-19対策が実施されるまでは、大学授業の時間割が、一定の強制力を持った予定として機能していました。しかし、現状では授業はオンラインで行われ、そのパワーポイント資料には好きな時間にアクセスすることができます。このような状況では、学習し続けるためには、自ら予定を立てることが不可欠です。予定を立ててみたけれど、予定通りにできないのが問題だと言う人もいるでしょう。そのような時は予定が過密すぎないかを確認してみましょう。楽で、シンプルで、持続可能な予定をまずは立てるようにしましょう。一旦、習慣が確立すれば、少しずつ負荷を増やすことは難しいことではありません。もう一つの工夫は、開始するための儀式を日常に取り入れることです。例えば、作曲家のベートーヴェンは毎朝、一日を始めるコーヒーを淹れるため60粒のコーヒー豆を数えたと言われています。なんでもよいので、あなたに合った簡単でシンプルな儀式を見つけてみましょう。
部屋のゾーニングを行って、学習環境を確立しよう
感染症医学の領域では、「ゾーニング」は重要な感染対策の一つです。病院では、清潔エリアと不潔エリアを分けて、医療従事者が不潔エリアにいる時は、感染を防ぐための個人防護具(Personal Protective Equipment, PPE)を身につけなければいけません。逆に、不潔エリアから清潔エリアへ戻るときには、ウイルスを清潔エリアに持ち込むことを防ぐために、PPEを全て外します。学習環境を確立するためにも、このゾーニングの概念は有用です。日本の住環境は猫の額のように狭いことは承知していますが、それでもできる工夫はあります。ゾーニングの考え方を利用して、部屋を「学習エリア」と「リラックスエリア」もしくは「娯楽エリア」に分けることは効果的です。娯楽のために用いるスマートフォンなどは学習エリアに持ち込んではいけません。もし、あまりにもスマートフォンが誘惑的であれば、学習の予定時間中はキッチンやトイレに置いておきましょう。学習エリアから手の届く範囲には、学習に関係のあるものだけを置きましょう。学習にパソコンが必須で、パソコンには多くの娯楽への誘惑があるから困るという人がいるかもしれません。そのような場合は、娯楽に用いるブラウザやゲームのアプリなどを、デスクトップ上から隠してしまいましょう。そこにたどり着くまで、数回でも多くクリックしなければならないことが、小さい障壁となってくれるでしょう
COVID-19の拡大によって、日常生活の様式が大きく変化しました。これらの変化がいつまで続くかはわかりませんし、その一部は一時的な変化ではなく、永続的な変化かもしれません。このような状況では、少しずつ変化に適応することが求められます。この困難な状況を皆で乗り越え、困難な状況においても学習が止まらないよう願っています。
2019年5月29日
(酒井崇、精神科医)
名古屋大学 グローバル・エンゲージメントセンター 支援チーム
参考文献
1. James Clear: Atomic Habits, An Easy & Proven Way to Build Good Habits & Break Bad Ones, 2018, Avery(牛原眞弓訳『ジェームス・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』, 2019, パンローリング株式会社)
2. Sarah Milne, Sheina Orbell, and Paschal Sheeran: Combining Motivational and Volitional Interventions to Promote Exercise Participation: Protection Motivation Theory and Implementation Intentions, British Journal of Health Psychology 7 (2002): 163-184.