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新型コロナウイルス(COVID-19)に関する心理的反応について
不確実性が生む不安
現在、新型コロナウイルス によってもたらされている様々な状況は、世界を不確実性で覆っています。将来への不確実性は、人間に不安の感情を呼び起こします。この不確実性が確実性へと変われば、不安も軽減されるでしょう。科学の主要な目的の一つは、不確実な恐怖を計算可能なリスクに変換することです。そのため、世界中の研究者たちは、必死にこのウイルスについての科学的知見を収集しています。しかし、今の所は、この未知のウイルスについての科学的知見はまだ十分とは言えません。このような状況で、不安を軽減する情報を集めようとするとフェイクニュースや十分に科学的に検証されていない予防法などを信じてしまうおそれがあります。SNSには、自分が読みたいと思う内容へと導いていくアルゴリズムが組み込まれており、偏重した情報のクラスターへと誘導される可能性があることは知っておくべきでしょう。噂やフェイクニュースに惑わされないように、できる限り、言及されている一次文献を読み、正しい情報を得ることが大切です。大学で学ぶべき、アカデミックリテラシーやインターネットリテラシーが、今こそ試されています。
不安を飼いならす
不安とは厄介な感情で、できる限り軽減し、可能ならば消去しようと考えているかもしれません。しかし、不安とは、本来有用なものでもあります。不安があるからこそ、私たちはこれまで様々な危険から逃れ、生き延びられてきているのです。不安とは「このままだと危険だから、備えをしないとダメだよ」という警告を与える信号なのです。「このままだと単位を落とすから、勉強しないとダメだよ」という不安は学生であれば、皆抱いたことがあるでしょう。不安が中等度の時は、不安はこのような警告信号として機能しますが、不安が限度を超えて高まると、不安に取り憑かれて、できていたことができなくなってしまうことがあります。このような時に、不安を取り除こうとすると、余計に不安に意識が向いてしまい、却って不安が高まってしまうことがあります。このような時、まず不安は取り除いてゼロにすべきものではなく、飼いならすべきものだという前提に立つことが大切です。その上で、不安の程度を中等度に抑えるための工夫を講じてみてください。不安の原因となっている思考が合理的なものか、今一度検討してみるのは一つの方法です。抱いている不安について、他人に話すのも有効です。不安とは、人間に備わっている根源的な感情で、恥ずべきものではありません。
目に見えない
猛威をふるっている新型コロナウイルス のもう一つの特徴は、それが目に見えないことです。PCR検査などで感染者を特定し、防疫措置をとろうとすることは、ウイルスを可視化する試みかもしれませんが、ウイルスそのものは決して目には見えません(電子顕微鏡などの器具を使わない限りは)。この目に見えなさは私たちの不安をより増大させます。目に見えない、ましてや人格をもたないウイルスを対象化することは難しいため、本来ウイルスという目に見えない敵に向けられるべき感情が、他の対象や他者に向けられてしまうことがあります(心理学用語では「置き換え」と言います)。特に、注意するべきは、怒りの感情が置き換えられた時です。
怒りを見つめる
もしかしたら、政府や大学など自分を取り巻く組織の対応に対して怒りを抱いているかもしれません。しかし、このウイルスが未知のものである以上、どのような対応ならば十分なのか、判断することは困難なのです。このような怒りが生じているとき、本来ウイルスそのものに向けられるべき怒りが、他の対象へと置き換えられていないか、点検することが重要かもしれません。このような置き換えは、関係する組織のみならず、身近な他者・個人へと向けられる可能性もありますので、注意しましょう。怒りという感情は、二次的な感情だと考える学者もいます。不安、不満、後悔、不安定な気分など様々な感情が一次的な感情として存在し、怒りはそれらの感情の一つの表現形だという考え方です。しかし、多くの場合、怒りを表出することは事態の解決にはつながりません。自分の中で怒りの感情が強くなってきた時に、その背景となっている一次感情がどのようなものであるかを、見つめ直すことも重要かもしれません。
コントロールできない
コロナウイルス の伝染を防ぐための様々な措置がとられていますが、現時点ではいつどのように収束するのかを予想するのは難しく、コントロール不能な状況に置かれていると感じているかもしれません。自分ではコントロールできない状況に置かれると、状況に圧倒され、無力感を覚えてしまいます。それまで有意義だと感じていた世界が、無意味なものに感じられてしまうかもしれません。「コントロールできること」をコントロールする
このような状況では、まず「コントロールできるもの」と「コントロールできないもの」を区別することが、重要です。普通の一個人であれば、世界にまたがるウイルスの蔓延やウイルスの影響による株価の暴落をコントロールすることはできないでしょう。コントロールできることとコントロールできないものを区別し、コントロールできることを行動に移すことが精神衛生には重要です。感染予防の観点から言えば、手洗い・手指消毒などの標準予防策や、人が多い閉鎖空間をできるだけ避けることなどが、個人ができる範囲での感染予防行動です。コロナウイルス のニュースに圧倒されているのであれば、意識的にニュースを見ない、検索しない時間を設けることも有効でしょう。これもコントロール可能な行動です。
何よりも大切なのは、快の体験を大切にすることです。感染拡大防止のための様々な制約はありますが、コントロール可能なことの中から、少しでも自分が喜びを感じられる活動を普段よりも一層大切にしましょう。
現状のような世界的な危機的状況においては、様々な心理的反応が生じるのは当然のことです。備わっている回復力によって、これらの心理的反応は乗り越えられることも少なくありませんが、もし自分の心理的・精神的状況について、誰かに相談したいと感じたら、遠慮なく、グローバル・エンゲージメントセンター 支援チームに連絡をとってください。
(酒井崇、精神科医)
相談先:
グローバル・エンゲージメントセンター 支援チーム
Email: isa<@>iee.nagoya-u.ac.jp
上記連絡先E-mailアドレスの<@>は@に置き換えてください。